【ネタバレ】映画「ラストマイル」ロッカーに書かれた文字の意味【2.7m/s→0 70kg】
・暗号の意味を明示されることなく映画が終了…
映画冒頭と映画終盤で重要なキーワードのように提示されていた「2.7m/s→0 70kg」の文字。映画の中では主人公の舟渡エレナ(満島ひかり)や梨本剛(岡田将生)はその本当の意味に気付いていそうではあるものの、意味深な笑いや絶望の表情を浮かべるのみ。はっきりと説明されることはありませんでした。
・「2.7m/s→0 70kg」を読み解く
映画の中で明かされたのは「2.7m/s」が物流センター「デイリーファスト」のベルトコンベアーの速度であること、「70kg」はそのベルトコンベアーの耐荷重量のボーダーラインであることの2点。この暗号の肝は「→0」が何を示しているかになります。
第1段階
・山崎はセンター長として働いていく中で重度のうつ状態になっており、この苦しみから抜け出したいと考えていた
・物流センターのベルトコンベアーを止めること、70Kg以上のものが乗ればよいということに気が付き、自分がベルトコンベアーの中に飛び降りることを思いついた
シンプルに受け取るならばまずはこれが最初に考えられることでしょう。これが第1段階。次に第2段階です。山崎が飛び降りる前と後ではこの「2.7m/s→0 70kg」が持つ意味合いが変わってきます。
第2段階
・山崎がベルトコンベアー上に落下したことで一度は稼働がストップしたが、すぐにスタッフによって床に引き下ろされ再稼働した
・ぎりぎりの精神状態で考え出した決死のアイデアが脆く崩れ、絶望を味わうとともに「→0」の意味合いが「稼働率0(ゼロ)」ではなく「稼働可能である〇(マル)」へと変化する
これが第2段階。そしてさらに、この暗号が次のセンター長へ、また次のセンター長へ…と受け継がれてゆき、次期センター長梨本へと受け継がれていくことでもまた新たな意味を持ちます。
第3段階
・山崎の自殺未遂があったにもかかわらずどのような改善もされないまま何度もセンター長が変わり、その度に暗号が引き継がれている
・問題意識を持っているがゆえに暗号を引き継ぐということはしていても、自殺未遂を出すほどの環境に対し誰も変化を起こしてこなかった
あえて消されることなく残されてきたこの暗号。歴代センター長は何か思うところがありつつもアクションを起こすことはできず、しかし暗号を受け継ぐことだけはしていました。これを見た我々も心に引っかかるものがあります。
そして映画を見る我々へと問題提起がなされる…
これを見た我々は今自分が置かれている状況に置き換えて考えざるを得ません。事の重大さに大小はあれど、少なからず変化の必要なことに対しどうすればよいかわからず、目をつぶりながら生きている自分を再認識することになります。
・まとめ
高度資本主義社会に生きる人間は利益追求のために様々なシステムを生み出し、その中で生きています。しかし利益は誰かの犠牲の上に成り立っていることが多々あります。映画の中でベルトコンベアーに飛び降りた山崎が血を流し倒れている映像が流れた後、「(物流の稼働を)死んでも止めるなと言っておけ」というセリフがあったのが非常に印象的でした。
今現在自分が組み込まれているシステムは正常であるか?無視できない犠牲を無自覚に生み出していないか?このような問題を投げかけるとともに、「2.7m/s→0 70kg」が示すメッセージは社会を動かすシステムの限界を示してくれている本作の骨子なのではないでしょうか。